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名古屋地方裁判所 昭和36年(ワ)1203号 判決 1963年2月06日

原告 新栄自動車株式会社

被告 永和運輸株式会社

主文

被告は、原告に対し、金五十六万八千七百二十円及びこれに対する昭和三十六年八月十七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金六十二万三千百七十円及びこれに対する昭和三十六年八月十七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、原告は肩書地においてタクシーによる一般旅客運送事業を営んでいるものであるが、昭和三十六年六月二十九日午後四時三十分頃原告方の運転者訴外村松光男が愛知県五か第一八六九号乗用車(クラウン)を操作して名古屋市千種区振甫町より乗客訴外野田君子、柴垣富美子の両名を乗せて西進し通称桜通りの千種区都通りの交差点に差し掛つた際信号灯は赤であつたので一旦停車した後信号灯が青となつたので徐行しつつ進行した途端被告会社の運転者訴外関根利朗は、被告所有の営業用大型トラツク東京都一え第六九二八号を運転して南北線の信号灯は赤であるに拘らずこれを無視して北方より時速約六十粁の超スピードにて南方に向つて暴走し来つたため前記村松運転者の車輛右側中心部に衝突したものである。

二、これがため、原告所有のタクシーは大破し、(修理所要日数二十二日)訴外村松光男は胸部肋骨二本を骨折した外、胸部その他に打撲傷を受け入院治療二ヶ月を要する重傷を蒙り、乗客の訴外野田君子、柴垣富美子の二人も相当の打撲傷を受け早速最寄りの原外科医師の診察治療を受けた。

三、叙上の如く本件事故現場は通称桜通り延線にて道路幅百米もあり同所南北線の道路は幅三十米の極めて見透しの良く利く十字路であるに拘らず被告方運転者訴外関根利朗が信号を無視し強引に通過せんとし無謀運転をした結果本件事故を引起したもので全く同人の重大な過失に基くことは明らかであり又同人が被告会社の事業執行中の事故であるから被告会社はその使用者として原告の蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

四、而して原告の蒙つた損害は次のとおりである。

五、そこで、被告に対し、右合計金六十二万三千百七十円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和三十六年八月十七日から支払ずみまで民事法定率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

と述べ、被告の主張に対し、原告主張の一日金八千円の割合による金員が水揚高であつて、諸経費を差引くと休車による実質的損害額はその七割であることは認める。と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は、原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因一、の事実中原告がタクシーによる一般旅客運送業を営むこと原告主張の日時場所において原告主張の事故が発生したことは認めるがその余は争う。被告方自動車運転者訴外関根利朗が運転していた速度は原告主張のように高速度ではなく時速約三十数粁であつた。

同二、は不知。

同三、は否認。

同四、は不知。

原告主張の一日金八千円は水揚高(運賃収入)であつて仮に原告に休車による損害があつたとしてもこれより諸経費(人件費、燃料費、車体原価償却費等)を差引くべきであるから原告の休車による実質的損害額は右水揚高の七割である。

と述べた。

(証拠)(省略)

理由

一、原告主張の日時場所において原告主張の事故が発生したことは、当事者間に争いがないので、右事故が被告方自動車運転者訴外関根利朗の過失に基づくか否かについて検討するに、成立に争いのない甲一、二号証の各一、二第三号証の二ないし四に証人松村信治、村松光男、野田君子、柴垣富美子の各証言を綜合すれば、原告方運転者訴外村松光男は原告主張の乗用車に乗客訴外野田君子、柴垣富美子(いずれも訴外山一証券株式会社名古屋支店セールスマン)を乗せて名古屋市千種区振南町方面より西進し通弥桜通りと都通り交差点に差し掛つたところ同所の信号灯が赤であつたので一旦横断歩道の手前で停車し、信号灯が青となつたので時速十粁ないし十五粁の速度で進行をはじめたところ、被告方運転者訴外関根利朗は原告主張のトラツクを運転して北方から信号灯が赤であるのにこれを無視し時速約三十粁ないし四十粁の速度で南進して来り、右村松運転の乗用車の右側中心部に衝突したことが認められ、証人関根利朗中右認定に反する部分は前記各証拠に対比してにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば本件事故は訴外関根利朗の過失に基づくものと認められる。

二、本件事故が被告会社の被用者である訴外関根利朗が被告会社の事業執行中引起したものであることは証人関根利朗の証言によつて明らかであるから、被告は使用者として本件事故により原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三、そこで原告の損害について考察する。

(一)  成立に争のない甲第四、五号に証人村松光男の証言によれば、本件事故により前記村松光男は肋骨二本骨折等の傷害を受け名古屋市千種区若竹町原外科病院に入院治療を受け、その費用合計金六万二千円を原告が支出したことが認められる。

(二)  成立に争いのない甲第六号証に証人村松光男の証言によれば、原告は本件事故により負傷休業した前記村松光男に対し金四万八千円を支給したことが認められる。

(三)  成立に争のない甲第七号証第八第九号証の各一、二第十、ないし第十五号証に証人野田君子の証言によれば、原告は本件事故によつて頭、肩、腰などに負傷し前記原外科病院へ入院した乗客の前記野田君子の入院手術治療費として原外科病院、中京病院に対し金三万八千七百九十一円を、休業補償費並びに見舞金として金五万八千円を、入院中の附添家政婦合計三名に対する雇入費として金一万七千三百九十五円を、入院中の氷代として金二千三百九十円をそれぞれ支払つていることが認められる。

(四)  成立に争いのない甲第十六ないし第十八号証に証人柴垣富美子の証言によれば、原告は本件事故により頭などに打撲傷を負い前記原外科病院へ入院した乗客の前記柴垣富美子の入院治療費として原外科病院に対し金一万千三百円を、休業補償費及び見舞金として金四万六千円を支払つていることが認められる。

(五)  前記甲第三号証の一ないし四、成立に争のない甲第十九号証の一ないし三第二十号証の一、二第二十一号証の一ないし三証人村松光男の証言によれば、本件衝突事故により原告所有の前記村松運転の乗用車は大破しその修理のため原告は硝子代金一万六千七百円、自動車部品代金七万四千五百九十四円修理費に金七万三百五十円をそれぞれ支払つていることが認められる。

以上の認定を覆えすに足る反証はない。以上の総合計金四十四万五千五百二十円が本件事故による原告の積極的損害である。

(六)  次に原告の休車による損害について判断する。原告がタクシーによる一般旅客運送事業を営んでいることは当事者側に争がなく前記甲第三号証の二ないし四に前記認定の原告所有乗用車に対する修理費用等からみて右乗用車が大破したことによりその修理のため原告主張のように二十二日間休車したことは容易に推断しうるところ、原告は右乗用車にて一日平均八千円の水揚高(運賃収入)がありこれより諸経費を差引いたその七割が実質的休車による損害額であることは当事者間に争いがないから、結局原告は本件事故により金五千六百円の二十二日分すなわち金十二万三千二百円の損害を受けたことになる。

四、結局被告は、原告に対し以上合計金五十六万八千七百二十円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和三十六年八月十七日から支払ずみまで民事法定率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべく、原告の本訴請求は右の限度で正当として認容し他は失当として棄却することとし、民訴第八十九条第九十二条第百九十六条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫)

別紙

一、金六万二千円      村松光男の原外科病院における入院手術治療費及び通院治療費

一、金四万八千円      村松光男に対する休養補償費

一、金三万七千二百九十一円 野田君子の入院手術治療費

一、金五万八千円      野田君子に対する休養補償費並びに見舞金

一、金一万七千三百九十五円 野田君子入院中の家政婦雇入費

一、金二千三百九十円    野田君子入院中の氷代金

一、金一万千三百円     柴垣富美子の治療費

一、金四万六千円      柴垣富美子に対する休業補償費並びに見舞金

一、金九万二百円      車輛修理費

一、金七万四千五百九十四円 車輛修理のために要した自動車部品代

一、金十七万六千円     休車のため蒙つた損害金(一日平均八千円の割合による二十二日分)

以上合計金六十二万三千百七十円

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